平成25年度 第75回全国都市問題会議 視察報告

10月10日から11日の2日間にわたり、第75回全国都市問題会議が大分市で開催された。
今回のテーマは「都市の健康」人・まち・社会の健康づくりである。

近年、人々のライフスタイルの変化に伴い、生活習慣病の増加が問題となっている。
かくいう私自身もその予備軍である。日常の忙しさに流され、健康のためとわかっているものの、軽度の運動すらできず、かといって健康に対して無関心ではない。そういった現代人が多く存在していると思われる。また、最近はストレス等によるうつ病などのメンタルヘルスも大きな問題となっている。
さらに急激な少子高齢化や本格的な人口減少社会の到来を迎え、全国の都市では、年々増大する社会保障関係費や多様化・高度化する住民ニーズへの的確な対応など、解決が困難な課題が山積しており、一方では、地方分権改革の進展に伴い、自主自立の自治体運営が強く求められている。
つまり、今後増大するこれらの課題に対して、各自治体が自らの方法で解決していかなければならないということである。
我が国の長期的な人口推計では、平成72年(2060年)には、8674万人になるものと見込まれている。この間、65歳以上の人口割合(高齢化率)は平成22年の23.0%から、同72年には、39.9%に達する。
因みに本市の高齢化率は現在、26.9%と国の平均よりも高く推移しており、今後、高齢者に対し、自立的な生活が営めることを目標にした各種施策が求められている。具体的にいうならば、「幸せに生きる」ことを前提に施策の制度設計、まちづくり、地域環境の整備を行うことと考える。
高齢者が意欲と能力に応じていつまでも元気に働けるようにするには健康の維持が不可欠であり、健康が維持されていれば医療費の抑制にもつながる。
そのため、これからの自治体にとって、「人」の健康管理が重要となることはいうまでもない。
このような現状の中、開催された今回の全国都市問題会議が「健康」をテーマに掲げた理由は、身体的、精神的な健康だけでなく、都市空間や社会の健全性の意味も含め、「都市の健康」とは「人」、「まち」そして「社会」という3つの視点から考える必要があるからである。

「人」の健康

健康とは、単に疾患や虚弱が無いということではなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態をいう。これまで、健康の維持向上は個人の健康管理と医療機関での治療が中心であったが、近年は人々が健康を保持できるようコミュニティ・地域で連帯して取り組むという流れに変化している。
また、現代社会では、個人の努力だけで健康を保持するのは非常に困難である。このような点から、社会的な面も完全に良好な状態を「健康」と考えるならば、人間関係、社会的立場、経済的環境など社会や組織にも健康に関する配慮が必要ではないだろうか。したがって、個人の健康の維持・向上には地域社会を健康・健全に保つことが必要である。
平成12年、国は、生活習慣の改善を推進し、認知症や寝たきりにならずに生活できることを目標に「健康21」を定めた。「健康21」では、基本的に個人が健康づくりに取り組むための環境を整備するとともに、総合的に支援することとしており、主に市町村が中心となって実現に向けた個人の取り組みを支援してきた。
そして、平成24年に「健康日本21(第2次)」が示され、社会全体が相互に支えあい、国民の健康を守る環境を整備することが示されている。

「まち」の健康づくり

人口の減少や高齢化の進行が進んだ現在、過去の市街地拡大による諸問題が顕在する中、市街地の低密度化が進み、行政サービスのコストが増大し、高齢化により買い物や医療の提供に支障をきたすなど、その一例である。
今後、住民の生活の質を高めるためには、量的な空間拡大ではなく、持続可能な都市空間や地域空間が求められる。
コンパクトで密度が高く一定の範囲で複合機能を持つこと。つまり、徒歩で移動できる範囲に活性化拠点や日常生活圏を形成し、高齢者に優しいまちづくりの視点だけでなく、地域の賑わいという視点を併せ持つことの実現である。

「社会」の健康づくり

現在、地域コミュニティが果たしてきた役割が徐々に機能しなくなってきた。
この主な原因として、(1)担い手不足(2)住民同士の人間関係の希薄化が挙げられる。
このような状況の改善には、地域コミュニティ組織やNPO、地元企業などが力を終結して、担い手不足の地域活力を向上することが求められている。

しかし、少ない担い手を補う手段を講じるだけでなく、地域の経済的自立を図ることや、人口の流入・定着を図り、新たな担い手を確保することが重要である。

以上のことが、基調講演をはじめとする各講演とパネルディスカッションの内容であり、 本市も含め各自治体の抱える共通の課題である。

 

所感

 人の健康を保つには、住民自らが主体的に健康づくりに取り組むのはもちろん、地域や社会の絆が機能することで相互に支えあい、住民の健康を守る環境が整備されることが求められる。
その意味では、住民が歩くことができる範囲で賑わいや交流を生み出す空間のある「街づくり」が有効である。行動圏が徒歩圏内にあるということは、高齢者にも優しいだけでなく、その健康づくりにも役立つことになる。
 本市の場合に置き換えて考えてみると、市民の健康に関して、
 ・「健康検診」では、医師・歯科医師・保健師・管理栄養士・歯科衛生士・健康運動指導士等による生活習慣病の予防、健康管理のための教室を開催している。
 ・「市民検診」では、成人健康診査のほか、各種がん検診や後期高齢者健康診査など、市民の健康な生活を増進するための施策を実施している。
 こうした施策が有効に機能するためには、市民それぞれが自発的に制度の利用を図り、早期発見・早期治療に結ぶことが重要である。 しかし、一方で確実な効果があるにもかかわらず、参加者が増えないという現実の問題がある。例えば、本市において、40歳以上を対象にする「特定検診」では、その受信率は23.5%と極めて低い水準である。
 こうしたことから、健康に関心のある層だけが参加するこれまでの政策から脱却し、市民誰もが参加し、生活習慣病予防および寝たきり予防を可能とするまちづくりが望まれる。
 また、「健康長寿社会」を創造するまちづくりも大きな課題である。より多くの市民を健康増進のために、行動を変化させていく方策として、歩くことが基本となるまちづくりが将来の健康都市の形ではないか。健康に関心の薄い層でも日常生活の中で歩くことが普通となるまちづくりを目指すことである。
 本市の中央エリア6.9haのうち3分の2は、街区の建物の老朽化に伴う耐震性の問題があり、また一部は耐火対策も喫緊の課題となっている。
 この問題の解消と健康都市への変貌、そして、中心市街地の活性化の観点からも長期的なビジョンをもった取り組みが必要であるということを今回の全国都市問題会議に参加した中で感じた次第である。